2020-06-22

小雨降る中、新宿末廣亭の六月下席へ。
木戸でセンサー検温を済ませ、客席後方に滑り込む。ちょうど二ツ目に昇進したばかりの柳家小はだがマクラを振っているところだ。
よく見ると一席ずつバツ印で間引かれているが、そもそも客はまばらで40名いくかいかないか。小はだのすっきりとした『真田小僧』が響く。

三遊亭萬窓の『ぞろぞろ』、浮世亭とんぼと横山まさみの漫才が続き、古今亭菊之丞が高座に上がる。たばこを吸う指先まで目を惹く『長短』。
番組表では次に柳家小里んが出る予定だが、代演で順序が繰り上がり、春風亭一之輔が現れた。

「子供の学校もね、始まってるんですけど、『お父さん、どこ行くの?』『寄席だよ』『えっ、なんで開いてンの?』って余計なお世話だっつうの」

「限定百名なんて言ってますけど、普段から百人も入ってねェんですから」

「こんな時期に、雨だってのに来てくれて、選ばれしお客さんですよ。でも、笑わないんですから。何しに来たんですか? って。しかも寝てる方もいる。ああ、寄席だなァ~って思いますよ」

先ほど入ってきて、私の前列に着席した夫婦の旦那のほうは、スマホをずっといじったままだ。
気怠そうに、一之輔が噺に入っていく。『鮑のし』である。すぐさま噺は熱を帯び、甚兵衛と大家のやりとりで爆笑が起こった。

中入り前だが、ここで換気のため休憩が入る。
トイレに行くと、普段はしない塩素系の匂いが鼻をついた。

色褪せたパノラマのような光景が続く。
ジャグリングのストレート松浦は、久しぶりすぎて筋肉痛になったと言いながらボールを巧みに操る。金原亭馬の助は噺を短く切り上げ、「大黒様」「恵比寿様」と羽織を使った百面相を。柳家小団治『つる』のあとは、林家正楽の紙切りだ。雨の日のお約束で「相合い傘」を切ると、客のリクエストは「シャンシャン」「六月の花嫁」「紫陽花」「日食」。
そう、昨夜は日食だった。ただ黒に切っても仕方がない。見上げる親子までを切るところが、芸である。

中入り前、最後に現れた柳家小満んが「浮世床 夢」をかけた。歌舞伎座で出会った女に頼まれて掛けた大向こう。逢瀬としゃれ込むもすべては夢だった――。
歌舞伎座はいつ開くのだろうか。ふと、現実が頭をよぎる。
中入りで末廣亭を出ると、雨は上がっていた。