東京ガーデンシアター、という馴染みのない会場へ向かっていた。地図アプリによれば国際展示場駅からすぐのはずだが、長い陸橋を渡り、見慣れぬ施設の中をあちこちと歩かされる。
そこそこに人がいる。植栽の周りを子供が駆けっこしている。あとで知ったのだが、一帯は有明ガーデンという複合商業エリアで、6月17日に開業したばかりだという。五輪を当て込んだのは明らかで、梯子を外された感も否めないが、同時に、なにか肩の力の抜けた朗らかさも漂っていた。
目当てのガーデンシアターに着き、入り口で検温を行う。和楽器バンドは二曲目「Ignite」の演奏に入ったところ。東京・大阪・名古屋と巡るツアー初日である。続く「reload dead」で、今夜はニューアルバム『TOKYO SINGING』の曲順通りに演奏することを理解した。
8月に開催された同バンドの横浜アリーナ2デイズは、国内における数千人規模の音楽ライブ再開の嚆矢となった。検温、ソーシャルディスタンス、マスク、拍手。一人の感染者も出すまい、という緊張感で繋がれたステージと客席は、方舟のようだった。
ガーデンシアターもまたキャパ8000人。一席あけたディスタンスで、4000人入っている単純計算となる。
横浜では、MCで感極まって声をつまらせたボーカルの鈴華ゆうこも、今日はライブそのものを楽しんでいるように映る。
つくづく不思議なバンドだ。「和楽器」と「バンド」を繋いだのは、ニコニコ動画のカルチャーだ。ボカロ、やってみた、ゲーム音楽――従来のポピュラーミュージックとは異なる文脈の音楽性を人力で成し遂げようとするとき、〈和〉の要素がアドバテージとなった。
ウェブサービスとしては役割を終えた感もあるニコ動は、そのガラパゴス性ゆえに、この国の伝統と奇妙に共振する。その痕跡は、キャリア初期にボカロPとして活躍した米津玄師が、五輪応援ソングとしてつくった「パプリカ」の彼岸への眼差しにも見ることができる。