ホテルをチェックアウトし、〈BCブラジルコーヒー商会〉でモーニング。美味いコーヒーと店内BGMのエリック・クラプトンで突如「整う」というか、啓示的なヴィジョン――ベンヤミン的に言えば、過去と現在が擦過する感覚に襲われる。これからしばらくの指針のごとき。
公園で親戚一同でサッカーやらキャッチボールやら。基本、みなスポーツエリートなのだ。コーボー、がんばってくらいついてる。
おかげで帰りの電車では子供たちぐっすり。読書が捗る。今年の一冊目『イーロン・マスク』上巻、読了。むちゃくちゃ面白い。
新宿に着くと、先に帰る妻とタクボーと分かれ、コーボーの買い物につきあう。お年玉で、出たばかりのベイブレードX、フェニックスウイングを買うのだという。宇都宮駅でもヨドバシカメラを覗いたが、完売。新宿駅西口のヨドバシならあるだろうと向かうも、こちらも完売。東口のビッグカメラまで大移動して、なんとかゲット。
帰りの電車でコーボーがフェニックスウイングの機構について教えてくれる。6歳児、私の知らないことをたくさん知っている。
帰宅するとNHKの歌舞伎生中継で中村壱太郎の娘道成寺をやっている。素晴らしい。コメントに尾上右近、さらに神田伯山による楽屋レポートまで。壱太郎丈と伯山先生のツーショットが胸アツ。昨夜に続き、コーボー、2本目の乳歯が抜ける。羽田空港でJAL機と海上保安庁の航空機が衝突したという。スマホの地震速報もまだ鳴り止まない。
生産に関する会議では、テスラでもスペースXでも、マスクは「アルゴリズム」なるものを持ち出すことが多い。ネバダとフリーモント工場で経験した生産地獄から学んだ成果だ。マスクの言葉に合わせて、同席した幹部の唇が動いたり言葉も発せられたりする。神官と一緒に祈りの言葉を口にするかのように。
「アルゴリズム、アルゴリズムって壊れたレコードみたいですが、でも、耳タコになるほどくり返すべきものだと思うんです」戒律は五つだ。
第1戒――要件はすべて疑え。要件には、それを定めた担当者の名前を付すこと。「法務部」や「安全管理部」など部門名しか付されていない要件を受理してはならない。必ず、定めた本人の名前を確認しろ。そして、その要件を疑え。担当者がどれほど頭のいい人物であっても、だ。頭のいい人間が決めた要件ほど危ない。疑われにくいからだ。私が定めたものであっても、要件は必ず疑え。そして、おかしなところを少しでも減らせ。
第2戒――部品や工程はできるかぎり減らせ。あとで元に戻さなければならなくなるかもしれないが、それでいい。実際のところ、10%以上を元に戻さなければならなくならないのなら、それは減らし足りないということだ。
第3戒――シンプルに、最適にしろ。これは第2戒のあとにやるべきことだ。そもそもそこにあってはならない部品やプロセスをシンプルにしたり最適化したりしてしまうのは、よくあるまちがいだ。
第4戒――サイクルタイムを短くしろ。工程は必ずスピードアップが可能だ。ただし、第1戒から第3戒までが終わったあとにやること。テスラの工場では、なくすべきだったとのちに気づく工程をスピードアップするのにかなりの時間を使うという愚を犯してしまった。
第5戒――自動化しろ。これは最終段階だ。ネバダでもフリーモントでも、一番のまちがいは、ステップの自動化から始めてしまったことだ。要件をすべて洗い直し、部品や工程を減らせるだけ減らし、バグをつぶし切るまで自動化は待たなければならない。
このアルゴリズムを前提にするなら、必然的に導きだされることがいくつかある。例を紹介しよう。
・技術系管理職は実戦経験を積まなければならない。たとえばソフトウェアチームの管理職なら仕事時間の30%以上は実際にコーディングをしていなければならない。ソーラールーフの管理職なら、自分も屋根に上って設置作業をしなければならない。そうしなければ、馬に乗れない騎兵隊長、剣の使えない将軍になってしまう。
・仲間意識は危ない。相手の仕事に疑問を投げかけにくくなるからだ。仲間を苦しい立場に追いこみたくないという意識が生まれがちだからだ。これは避けなければならない。
・まちがうのはかまわない。ただし、自信を持った状態でまちがうのだけはやめよう。
・自分がやりたくないことを部下にやらせてはならない。
・解決しなければならない課題に直面したら、管理職に伝えて終わりにしないこと。階級を飛ばし、管理職の下の人間と直接会うこと。
・採用では心構えを重視すべし。スキルは教えられる。性根をたたき直すには脳移植が必要だ。
・気が狂いそうな切迫感をもって仕事をしろ。
・規則と言えるのは物理法則に規定されるものだけだ。それ以外はすべて勧告である。
『イーロン・マスク』ウォルター・アイザックソン著/井口耕二訳