DDTの大田区総合体育館大会へ。なんと全席無料興行。攻めつづけるDDT、高木三四郎。見習いたい。会場入り口付近に、チケットをとりまとめてくれた伊野尾書店・伊野尾さんの姿が見える。今回も伊野尾さんを中心に、20名を超える出版シンジケートご一行である。
さかのぼれば11年前、私が高木三四郎自伝『俺たち文化系プロレス DDT』を編集した際、そのプロモーションとして「本屋でプロレスができたらいいですよね」なんて話に高木さんとなったのが、ことの始まり。しかし、肝心の本屋探しは難航。某遊べる本屋などにも断られるなか、営業のMくんが「あそこの店長だったら……」と紹介してくれたのが、中井の伊野尾書店だった。伊野尾さんは二つ返事で快諾。新木場1stリングで行われた本屋プロレス旗揚げ記者会見では、 当時業界誌「新文化」編集長だった石橋毅史さん(元猪木信者)の「本が傷んだり、汚れたらどうするんですか?」という質問に、「闘う前から本が傷むことを考えるやつがいるかよ!」と答える高木さんの横で苦笑いを浮かべる伊野尾店長、という実にプロレス的なスキットが繰り広げられたのも懐かしい。肝心の本屋プロレス旗揚げ戦は、のちに飯伏幸太を中心に展開されるDDT路上プロレスの原点として、いまや伝説化されている。
それ以来、DDTシンパとなった伊野尾さんは、毎回ビッグマッチの際に、数十名に及ぶ出版人たちを募って観戦ツアーを敢行しているのだった。席につくと、後ろの席に見知った顔。幻冬舎の竹村優子さんだ。竹村さんがプロレスとは珍しい。「プロレス見るの、九龍くんに誘われて後楽園でアイスリボンを見て以来」と言うから、これまたずいぶん昔の話だ。さくらえみ時代のアイスリボンだよ。思えば大塚幸代さんも一緒だった。さらに掘ると、これまで竹村さんがプロレスをナマで見たのは3回で、すべて私に誘われてのものだという。アイスリボン後楽園大会の前が、アイスリボンの蕨道場マッチ、さらにその前がなんとか …… ワン。「K-1?」「違う。たしかそれも後楽園で――」。それでピンときた。ZERO-ONEだ。しかも橋本真也と小川直也のOH砲全盛期、メイン後に川田利明が乱入してきた回である。新日本プロレスを一度も見ることなく、ZERO-ONE、アイスリボン(さくらえみ)、DDTと歩みを進めてきた竹村さんのプロレス観戦歴。ちょっとエリートすぎやしませんか。
久しぶりのナマDDTは、すべてが心地よい。すでに3月のマッスル両国大会でプロレス観戦デビューを果たしているコーボーも楽しそう。彰人vs朱崇花の蛍光灯IPPONデスマッチがとても好みな感じだった。高木三四郎vsスーパー・ササダンゴ・マシンのO-40選手権大会にもまんまと感動させられてしまう。竹村さんも観戦したアイスリボン道場マッチの反省会でさくらえみに反旗を翻してハイキックをきめていた松本都が、高木三四郎のウェポンの一つとして登場。しかも「先日アイスリボンを退団しました!」とのマイクで、感慨深いものがあった。日芸でcero髙城くんやロロ三浦くんとほぼ同世代なんだよな、松本都。そのアングルで見ている人も皆無だろうけど、案外重要なことだ。
最近はプロレスについて書く機会も少なくなってしまった。ただ、ちょうどいま売っている『文學界』の連載で、さくらえみの最新プロジェクト「誰でも女子プロレス」と、CIMA率いる中国のプロレス団体「OWE」について書いている。読んでもらえたらうれしい。題して、「ゼロから始まる令和のプロレス」です。