2020-11-15

坂田藤十郎、逝く。
最後に見たのは歌舞伎座の『けいせい浜真砂』だろうか。女五右衛門。真柴秀久は仁左衛門だった。「絶景かな」南禅寺山門の場だ。たった20分。その短さと、しかし吸い込まれそうになる眼福を隣りにいた妻と語り合った記憶がある。

孫である中村壱太郎丈と親しく仕事をさせてもらうようになり、改めて、その何ものにも代え難い存在感を思うようになったところだった。

読み終えたばかりの松井今朝子『師父の遺言』に、こんな一節があった。

近松座の主宰者である中村扇雀(のちの坂田藤十郎:引用者注)は、何しろ夫人が国土交通大臣や参議院議長まで務めた人物だからして、女性が差配的な役割を果たすことにまったく抵抗を感じないという、当時の日本ではめったにいないような貴重な男性だった。

松井今朝子『師父の遺言』

心よりご冥福を。